音符のある風景/ささやま ひろ
 
弾こうとしたら
自分に嫌気がさすことが分かりながら
ピアノの前に座ってみたら
楽譜を読むのがとても苦手で
暗譜でごまかしたことを思い出した

どうして楽譜を読めないって
正直に言わなかったのか
怒られたくなかったのか
恥ずかしかったからなのか
悔しかったからなのか

あの頃の風景は
少し昔のカラー写真のようで
赤や緑が不自然に鮮明な古い世界なのに
手で触れられるような近くに感じて
胸が少し苦しくなる

1オクターブとあと1音
僕の手はあまり大きくなってない
あの頃の旋律は今も忘れないけど
時間はやはり経っているわけで
僕の指は鍵盤を弾けない

君と暮らすその前に
話しておこうと思う

どうでもいいこの話と
ピアノを弾きたいってこと




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