音符のある風景/ささやま ひろ
 
メゾピアノから入る旋律を
僕はとても気に入っていたんだけど
どうしてもイメージ通りに弾けなくて
いつも最後には
鍵盤をぶっきらぼうに掃除しあと
それでも静かに蓋を閉めた

あのころ優しく扱わなければいけなかったのは
ピアノだったのか
弾けなくて齧った自分の指だったのか
親の想いだったのか
月並みに言うような自分の心だったのか

子供心に奏でたイメージは
なぜか大人になっても残っていて
感性に成長がないんじゃないかと思いながらも
目を閉じて五線譜をたどる
齧った指はいつまでも痛かった

優しさと暴力と屈折と暗闇
半オクターブ上がったら弾けない恐怖

今弾こ
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