静粛/伊月りさ
小蠅を優しくつぶした
初めての五十匹目です
ひとさしゆびの先端で
薄い壁の向こうがわの
恋人も眠り続けたまま
サンダルの隙間に砂が
ちくっとしたことを思い出す
切腹よりも
投身よりも
わたしの指先は死ななくてはいけない
買ったばかりの月刊誌の往来は
あまりに速度違反に思え
追えない時間を味方に
ふと生まれたときから
独立していた埃
は
つぶしても
つぶしても
この視界がゆるせなかったのか
つぶしても(パン!)
…ぱん(挟みこんでぐっとおさえつけるのがコツ)
疲れ果てた恋人たちの
陰で髪を咀嚼している
ゴキブリの子どもたち
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