遺書にはならない足跡/セグメント
 
て来て、さびしいと思ったことはなかった。否、強く強く思ったことはなかった。あるいは思ったことがあったとしても、すぐに打ち消していたに違いない。
 人間は皆、ひとりきりであり個の生物であり、コアセルベートのようでは決して有り得ない。生まれ落ちた時に個であるならば死に行く時も個であることに他ならない。たとえ、愛する人が、友人が、家族がいたとて、それは同じことだ。生まれる時も死ぬ時も、誰とも一緒ではないし、誰も連れて行けない。誕生日を幾度祝われても、命日を幾度祈られても、人間が個別の生き物であり、ひとりきりである現実も事実も、鏡のかけらひとつ分すら変わらない。何も、変わらない。
 人間が個であり、生
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