あのときこそがきっと本当に夏だったのだ/ホロウ・シカエルボク
 


悪くなったアイスコーヒーみたいな街の小さな川で
潰れた空缶が溺死している
ずっと昔のことを思い出す
買ってもらったばかりの
ソフトビニール人形をバラバラにして似たような川に捨てた
殺してふたつにちぎった蝉も同じように捨てた
思えばあのころには
いつでもなにかの死体が転がっていた
一本ずつ順番に
足をちぎられた飛蝗
安いジュースの瓶に
詰め込まれて窒息した雨蛙
虫眼鏡で焼かれた蟻
たっぷりと塩を浴びせられ
火傷のように溶けた蛞蝓
巣を奪われた蓑虫
下手くそな標本にされて
結局腐った夏休みの証
爪のない蟷螂
芋虫みたい
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