浮音/伊月りさ
女は逃げていた
六畳半はどうしても直方体になろうと
空間を見つけては知らない女を詰め込んでいた
女が見えた
両親の寝室にはいない女から
引き上げる布団に重さはなかった
布団と壁とを
ぴたんとしないことは
わたしを逃がすことだと脅してみる
《二十一歳のF》
これは夢
長い刃物を持った和室で頭を暴れさせる
まだ想われているのか
わたしは夢だということに限って
これは夢 ではない
だから満たされる
浴槽に
水をはられたり
両手で洗濯機にされたり
一日中洗われていた
肌が裂けていた
赤いわたしが(赤かったかどうか確かめられないほど)
四角であることを辞めて
きみの体になろうと溶けた
それは明け方の記し
きみたちが読み
わたしにはきこえない処理
ぎりり、ぎりり、と
骨のような
年月の摩擦音を止められず
のびていく神経の断片
を かき集めることをゆるしてくれる
肉にただ保たれている
保たれるための儀式
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