稲妻/草野春心
 


  世界にはたくさんの場所があり
  たくさんの営みがおこなわれている
  その日、僕が
  することを選んだのは
  床屋に行き
  髪を切ってもらうこと



  ひどく無口な
  薄笑いをうかべた男は
  背後から僕にケープをかけ
  最初の鋏をいれる
  それから次の、そして
  そのまた次の鋏を
  僕は
  眼をとじて
  しずかに身をゆだねる



  それはまるで
  詩をきいているようなできごと
  瞼のうらには
  あわい色をした光が滲み、そして
  刻まれる音、
  音、
  音、
  音



  それ
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