どしゃぶり長距離ランナー/麦穂の海
 
右へ動かしたり
左へ動かしたりしているうちに

汚れた東京湾は
あっけなく暮色にしずんでいく

触れかけるポエジーの尻尾を
つかんだり、ブンブン振り回したりして
気づけば
隣り、シンデレラ城に花火が打ち上がったのだ


パノプティコンと監視カメラの夢の国
右側からは、美しくライトアップされた
巨大なダリアが
色とりどりのネオンを、アクアドームに
映していた

海風が頬を撫でた



女はひとりぼっちだった



炸裂する火薬の玉の音が
鼓膜を次々に叩いていく


からっぽのディストピア

女は堪らなくなって、走って
逃げた

可哀想なくらい走った


どしゃぶり長距離ランナーには
すがれるものは
情熱だけだった

虚無がつねに情熱の裏側に
ピッタリ張り付いていることに
あるいはその逆があることも

女は気づかなかった

そして情熱だけを抱いたまま
すっころんで

一つの季節が終わった


le mercredi 31 aout 2011







戻る   Point(4)