メメントモリ/麦穂の海
「昨年の父の日には
おやじと蛍を見に行きました。
丁度、一年後の同じ日に、このように
いなくなった、おやじの偲ぶ会を開いている
なんてことは、夢にも思っていませんでした」
伯父さんと叔母さんと
なおちゃんと ようくん
おばあちゃん
喪服の肩の上を
緑色の冷光が舞う
おばあちゃんの左隣
ぽっかりあいた紫の夕暮れにも
小さな光が
ふわりふわり
漂っている
おじいちゃんの
愛娘のきゃしゃな踝の向こうから
小川のせせらぐのが聞こえ
澄んだ西の空は
ゆっくりと青みがかっていく
川の音も蚊柱も
ムッとする草のにおいも
あの日のままだという
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