無題/遠藤杏
 
焼かれていく存在しなかったいくつもの文字と文字の間に幼い泣き声がきこえる
遠くから迫ってくる争いの騒音と
でたらめな正義と、ぬかりない計画と、冷めた目線と、緩んだ声と、
手放さなければならなかった多くのものたちと絡まり合った塊の臭い
足音がこわい 天才なんかいない 生命が危うい 混沌
濁った水のなかで見えない目をこらしていると鮮明に見えてくるものがあって、
それは次第にどんどん増殖して
目の真ん中に点となって現れ
やがて真実を見抜くことさえも難しくなってしまってからは、
もうすべてがどうでもよいと思えるくらいに
なぜだか一番正しい方向にむかえるような気がしてきた
知らなかった
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