3月11日/麦穂の海
 
ひとの一生ははかなくて
ふいにやぶけてしまう
ぴんとはった
うすがみのように

3月11日
がんを患うあなたの目の前で

おそらく数千の一生が
一瞬にしてやぶけてしまった


あなたのいのちのほのおを
絶やすもんかと
手でおおい、体でおおいして
あなたの横たわるベッドの周りを
大勢の人が手をつなぎ
運命の強い風から守りたいと願う
その前で

ほのおをじっとみつめる間もなく
吹き消されてしまったいのち
たちを
私たちはぼう然と見ていた


あの数分間ゆれにゆれる地面にふんばりながら
落ちてきそうな食卓のあかりを押さえながら
思い続けたのは

[次のページ]
戻る   Point(7)