灰色の大地の下で/wako
 
  欅の枝がおおいかぶさり
  まるで森の中
  体を揺らせて
  頭で拍子をとって
  弾き続ける
  テーブルの上にはマヤコフスキー詩集
  花瓶のラナンキュラスが震え
  ピアノの調べがまとわりつく
  木漏れ日が壁を走り
  夕刻を告げている
  この部屋は生きている

耳もとで呼ばれた気がした
凍りついて動けない
衝動的に花瓶をつかんで
力いっぱい振り下ろした
ラナンキュラスが床に散らばり
ピアノの音が途切れる

振り返らずに走った
人ひとり殺すなど
ここでは簡単な事
土をかぶせて完全犯罪
欅の木は完全に埋めてしまった
この下で何があったか
もう誰にも解からない

返り血をぬぐって日々を生きる
なぜだかもう春の歌は弾けない
ラナンキュラスを正視できない
時々後頭部がズキリと痛むが
気のせいかも知れない
戻る   Point(3)