世界=内臓族/paean
 

せんせいの目玉からじゃあじゃあと白が流れ込んでくる。
みたことのない恍惚が。


「せんせい?」
「見える?」
「見えます、まっしろ、です、せんせいって目が見えない人だったの」
「ううん、僕の目には見えないものがないだけ」


 手術が終わって、短い睡眠をとるとわたしたちはタオル屋を出て、神社の向かいで今度はブレンドとホットチョコを注文した。


――君は自分が金持ちだと思っているかい?
ああ、ないものはない。もう何も持っていないくらいにね。
(シャザル)


 本棚からたまたま取った一冊を見せ、せんせいあれってこんな感じ?と訊くと、まあそんなかんじでいいんじゃないと頼りない返事が返ってきた。
 左目の奥で、また誰かの服が裂かれている。
こんどは日本人の子どもが死んだ。
義理の母親にやられた。
 先生に貰った白い視界は血と泥に塗れた視界に1ccも混じらず、苦みも苦痛も全然癒えない。役立たずな目、と睨んでみせても、彼はにやけるだけだった。


 右目の奥では甘い練乳のかたまりが、ぴくりとも動かずに眠っている。
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