つたの洋館/はるな
 
けど。
靴が好きだったろ?足は右足と左足、それだけしかないのに部屋がひとつ埋まるくらい靴ばかり持っていてさ。はだしでどこへでも行けるくさにさ。
髪は伸びた?長い髪にあこがれるって言いながら、いつも、すぐ、自分で切ってしまうから、寒々しいほど短い髪で。
それからぬるいシャワーも好きだったね。水みたいにぬるいシャワー。湯船に浸かるのはきらいなのに、贅沢なくらい勢いよく蛇口をひねって、何分でもシャワーに打たれていた。
僕にはわからなかったけど、でも、知っているつもりだったんだ。何を?何かを。

そのときにはそうだってわからなかったけど、君も、あのときに君のすべてを知っているわけじゃなかったんだ。
それが、そんなに、大切なことだって、わかるわけなかったんだ。
だから絶望することはなかったのに。
導かれるように、物事は、大事になっていくのに。

でもそれだって、いまになってやっと、僕はわかったんだ。
そのときにはまさかそれがそれだなんて、予想だにしなかったんだから。


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