きりん/salco
 
 選挙の投票に行った。
 梅雨あけ近い佳き日曜日、大人達はペラペラの選挙権を携えて、散策の足
取りで投票所に充てられた小学校へと向かう。

 その校庭で、攀じ登ったジャングルジムのてっぺんには幼い娘が、背の高
い父親の頭を初めて見下ろすような誇らしい嬉しさを、雲を敷き詰めた空ご
と胸に吸い込む。あれは私だ。
 肩車のたび掌握して来た黒い頭髪をいま遥か眼下に置き、なるほど私はジ
ャングルジムを領有する、父のお姫様なのだった。そして父は消えてしまっ
た。何故なら四十年経った。母も十年前に消えてしまった。十年と言えば大
昔だ。きれいだった女が精神病院で廃人と化すほどの。


 
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