ノート(雨と王座)/木立 悟
 




五つとひとつの指で実をささえ
右は左の午後を見わたした
こぼれゆくものを
見わたした


鉄とガラスのはざまの蜘蛛
ずっと光を投げつづけている
陽でも灯でもない
雨の残り香


岩陰に眠る
蛾の群れの目
国なき国の
草の背たけ


風が街の上に山をつくり
じっとなだらかにそよいでいる
たかまりや たかまりや
たかまりを呼ぶ


忘れた言葉
まだらに静かなはざまから
夜はふたたび
ふたたびあふれる


まぶしさは痛く
陰を歩む
かなわぬものを
冠に満たし


硬く泳いでいた
人は暮れを着た
忘れられた路
真新しい檻


見ひらくほどに見えなくなる
やがてひとつふせ もうひとつふせる
夜の蒼の
背ばかりを見る


海に突き出た海は
思い出せない輪郭に揺れ
緑ひとつだけ傾いて
冠へ冠へ冠へ降る
























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