巨星、落つ/板谷みきょう
 
朝早く
日の暗いうちに電話が鳴り響く
母さんからだった。

朝の4時過ぎに
兄貴が息を引き取ったと
着信履歴には
妹と母の履歴が続き
留守電にはメッセージが
残ってもいた

動揺を抑えきれずに
直接伝えたい気持ちが
こんな形で現れるものなのか

我が生涯に一片の悔いなし!

酸素マスク越しに呟いて
右口角を上げてニヒルに微笑んだのは
そういうことなのか?

其れか!其れだったのかっ!

兄貴が半年の間
見上げていた病室の低い天井に
死兆星が見えたとでも言うのか

黒王に乗った世紀末覇者
羅王にでも成れると思ったか

まだ八月の十三日じゃないか
地獄の釜の蓋は
十六日じゃないと開かないぜ
兄貴よぉ

一子相伝でもあるまいし…

言いたいことが
山ほどあったけれど
スメアゴルの姿に
なっただけだった
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