奪いたかったのは/草野春心
 


  奪いたかったのは
  肉体ではなかった
  きみの内側にひそむ
  薄暗く丸いものでもなかった



  それは概念だった
  女だった
  ぼくが
  命をかけて奪いたかったのは



  たとえ爪をたてても
  痛くも痒くもなかっただろう



  愚かだった
  くだらないほど愚かだった
  すました顔をして
  なにひとつ
  きみはぼくから奪わなかった




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