あの時は気付けなかった思い出/板谷みきょう
 
こんな自然に囲まれた
景色の良い養老院に
住めるようにしてくれたんだね

うねうねの小道を
両手一杯の手荷物で汗だくの父さんと
ボクの手を引き黙々と歩く母さんの後を

ばあちゃんは
必死になってついてきてたんだ

あの時は気付かなかった

すぐ隣には、病院もあるから
心配はいらないわね

母さんが初めて口を開いたのは
丁度、病院を通り過ぎて
裏庭の辺りを歩いていた時だった

坊ーやぁー!坊ーやぁっ!

突然、大きな声が聞こえた
声のする方を見ると
病院の窓の鉄格子を両手で握りながら
知らない小母さんが
こっちを見ながら叫んでいた

養老院じゃ
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