音のない洞窟/吉岡ペペロ
 
東南アジアの音楽がこころの闇を奏でている

こころの闇なんか信じない

そううそぶいていたシンゴのこころにねっとりと熱い音楽が流れていた

こころの光を信じていたかった

鏡にうつった顔に手をやると動悸がとまらなくなった

ここはもう音のない洞窟ではなくなっていたのだ

シンゴはバスタブに湯をためじぶんのからだを清潔にするための身仕度をはじめた

ヨシミ、ヨシミ、と唱えてみた

つぎからつぎへと涙があふれた

シンゴは備え付けのカミソリを乱暴にやぶりプラスチックのカバーをはずした

ヨシミ、ヨシミ、と嗚咽した

まちがえて左手の人差し指をきってしまった
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