おもいでの丘/木屋 亞万
人生を振り返るのは
過ぎた時を引き返せないから
遠くから眺めるしかすべがないからなのだ
つらい坂道を登っているときなどは
ついつい後ろを振り返る
過去の道の上には
夕陽の剥けた皮や赤い果汁が
橙色の果実の切れ端とともに
なつかしい光を放つので
過ぎた時がおぼろげになる
旅人は別段急ぐ必要はない
絶対的な使命や目的があるでもない
寂しいときは膝を抱えて
ずっと過去を見つめている
そういうおもいでの丘を
いくつも背後に残しながら
追えば逃げる未来へと
少しずつにじり寄っていく
どこへも着かなくても
構わないのだ
ほんとうは
おもいでが降り積もるのをながめて
おもいでが解けていくのをかんじる
おもいはいつでも今ここの
わたしの中にあって
外に出たおもいは
おもいでになって
後ろでなつかしく光る
光ってそっと背中を押すのだ
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