おもいでの丘/木屋 亞万
帰るべき家があれば
来た道を戻るということは
当然のこととなるが
家を持たぬ旅人は
どのように歩いても
片道の往路でしかない
家と目的地を往復するだけの
平凡な毎日に
何も疑問を持たない頃は
私もチャックの開閉をするように
通学通勤の道筋を往復していた
朝に一日を開き
夜に一日を閉じる
ふとしたときに人生が
過ぎた時の戻ることのないものだと気づいた
家に帰るように
赤ん坊に帰ることは出来ない
この世に生まれて
ただ終着のどこかまで
時を進んでゆくしかない
「人生は旅だ」と言った人の
どうしようもない寄る辺なさを
私はようやく思い知った
人生
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)