笑顔/洞野いちる
 
手鏡に映るわたしは、
媚びた笑顔を貼り付けて、
片想いの彼に振り向いてもらうための練習をしていた

プリクラに写るわたしは
美白と睫を盛る効果で
タレントみたいに可愛くなって、笑っていた

笑顔笑顔笑顔

わたしが求めているもの

だけど
鏡でいくら口角を上げても、
プリクラでいくら可愛くなっても
心は満たされない

もっと可愛くなりたい
もっと笑顔が似合うひとになりたい

そう思えば思うほど
練習した笑顔が醜くなってゆく

笑顔とは口角を上げれば作れるのではないか
笑顔とは目を細めれば作れるのではないか
笑顔とは表情筋を鍛えれば美しくなるのではないか
笑顔とは「ウ・イ・ス・キー」の合言葉で輝くのではないのか

心が満たされない原因はわからず
時間が過ぎてゆく

そして
今日もまた
わたしは手鏡に笑いかける
そこに写るのは醜い生き物と知っていながら


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