つたえられない/草野春心
 


  さわってもいいけれど
  そこにはないよ
  僕の手にも
  やせた胸にも
  ズボンの下にも
  さわってもいいけれど
  つたえられない



  書いたっていいけれど
  変わってしまうよ
  五・七・五でも
  小説でも
  メモワールでも
  いくらでも書けるけれど
  つたえられない



  黙っていようか
  でたらめなことだけを
  喋ろうか
  思ったそばから
  それは
  なくなって



  つたえられないまま
  もつれるように
  君を抱き
  君を描き
  夕暮れの光のように
  僕たちは
  満ちてゆくけれど



  つたえられない
  いつも
  ずっと
  つたえられない




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