太陽を借りた黒犬/シリ・カゲル
 
いに、
ミシュランの星付きレストランに致命的な発注ミスをしてしまった。

それでもまだその時は
ポシェットの中の太陽は燦々と輝いていたんだけど。
ある朝、
職場のパソコンに届いた悪い報せ

〈営業部黒犬殿の御母犬堂は昨日、皮膚癌で永眠されました〉

あれからも町には変わらず
雨が降って、風が吹いて、
花はそよぎ、木々は緑を濃くしていく。
そう言えば昨日の晩、
商店街の肉屋のコロッケをかじりながら僕は
電器屋の前で黒犬とすれ違ったよ。
黒犬はすっかりやつれってしまって
目の下には白いクマ。
お気に入りのポシェットには雲散霧消
もはや太陽の姿はなかった。
僕は黒犬に声をかけようと思ったけれど
なんだかまだその時期ではないような気がして
ただコロッケのソースが地面に滴るに任せていた。

甘いウスターソースの池に群がる大きな黒い蟻たち。

黒犬は商店街の果てに
ただの黒い点となって消えていく。
まるで明け方になって失われていく星の光のように。
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