生きている/
吉岡ペペロ
洞窟をでると
セミが鳴いてくれていた
五感がやわらかく戻ってゆく
夏の朝風が耳もとでほどけている
ロータリーではバスが唸り
日傘の若い女がなぜか微笑んだ
きのう関東でまた地震があった
生きとし生けるものは
みな死のうえを生きている
だがそれは本質ではない
ひとはなんのために生きるのか
下水の匂いをさせた風がゆきすぎる
生きている
この可能性の広大無限を
セミの交響を聴きながら考えている
戻る
編
削
Point
(1)