生きている/吉岡ペペロ
 
洞窟をでると

セミが鳴いてくれていた

五感がやわらかく戻ってゆく

夏の朝風が耳もとでほどけている

ロータリーではバスが唸り

日傘の若い女がなぜか微笑んだ

きのう関東でまた地震があった

生きとし生けるものは

みな死のうえを生きている

だがそれは本質ではない

ひとはなんのために生きるのか

下水の匂いをさせた風がゆきすぎる

生きている

この可能性の広大無限を

セミの交響を聴きながら考えている









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