箱のなかのひと/恋月 ぴの
 
その箱のなかには夢が溢れていた

幌馬車に乗っていたり
早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて

またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば

誰もが海の向こうの豊かさに憧れた




箱のなかで身を粉にして働いた

白い鳩の大群が国立競技場の空に舞い
幾度も揚がる日の丸に涙して

国を誇りに思うとはこのことなんだと頷いた




箱のなかのインディアンはいつも悪者だった

日本兵も悪者で情け容赦ない火炎放射の餌食となって

悪者なら何人殺したとしてもそれが正義だった




エノラ・ゲイは箱のなかを飛んでいた

ゼロ戦
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