箱のなかのひと/恋月 ぴの
その箱のなかには夢が溢れていた
幌馬車に乗っていたり
早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて
またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば
誰もが海の向こうの豊かさに憧れた
※
箱のなかで身を粉にして働いた
白い鳩の大群が国立競技場の空に舞い
幾度も揚がる日の丸に涙して
国を誇りに思うとはこのことなんだと頷いた
※
箱のなかのインディアンはいつも悪者だった
日本兵も悪者で情け容赦ない火炎放射の餌食となって
悪者なら何人殺したとしてもそれが正義だった
※
エノラ・ゲイは箱のなかを飛んでいた
ゼロ戦
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