スチール/黒川排除 (oldsoup)
 
 わたしはシャッターの降りた酒屋の前で人を待っていた。夜だ。幸いにしてベンチはあったが、なければ凍り付いていたかも知れない。木で出来たベンチは冷たく、しかし体温は冷たくなく、わたしはすぐに暖かくなるだろうと安心していたのだ、わたしは奪われる体温を感じるや否や氷を吐いた。真夜中のことだ。秘密を──わたしは秘密を秘密のうちに暴露している。ベンチの両脇には自販機が三つずつ置かれている、煙草、煙草、飲料、煙草、煙草、煙草。しかし向き直ったのは数え上げるためではない。何故向き直ったのか、それは物音がしたからである。人影だ。今自販機の前にいる男が、取り出し口から出てきたとは思えない。しかし男は小銭をポケットに
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