ノート(いない わたし)/木立 悟
 




夜が夜を動く
ふたつの音
ふたつすぎて
削れる音


緑の鍵盤をひとつ呑み
崖を歩く
植物園
火のなかの釦
かけてはほどく指


前へ 前へ 過去ではなく
端を切り取り
陸は少なく
波を真似て
砂と木にたどり着き


すべてが昼に在るため見えず
いつもいつも見えぬまま歩き


何も書かれていない父の日記を破り
何もわからぬまま書きつづけ


器の内側の外側に
同じように花を描き
ぐるりと高く また地に沿って
たくさんのけだものの名を記し


紙がなくなり 手のひらに書く
数百も数千も降りそそぐ


目のうしろの目
眠らないので
しあわせではないしあわせに
苦しんで眠る


これらの終わろうとする終わりは
ほんとうの終わりかもしれないが
まだ終わらないままなので
わたしはこうして
いないままにいる





























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