ぽっぷこおん/リンネ
 
 おお、ポップコーンのカップの中で空振りする右手。食べつくしてしまった。食べた記憶もないのに。バターとキャラメルでぬめぬめと光って、指先が、母乳にべたついた乳首に見える。吸いつくわたしは、そういえばどこにいるのだ。埃でざらついた暗がり。埋もれた地下室の湿ったかび臭さ。前方に設置されている横長の大型スクリーン。つまり、どこかの老朽化した映画館の中らしい。上映は始まっていないが、ポップコーンの陽気なコマーシャルが劇場を淡く照らしながら、繰り返し、動いている。前のほうの暗がりには、男女のすらっとしたいもむしが一組だけ座っていて、睦まじく身を擦り合いながらお互いの存在を確かめ合っている。たまにうっすらと気
[次のページ]
戻る   Point(2)