蛍/花キリン
夏になると私の心の中に生まれてくるものがある。何故なのだろうかと問いかけながらいつの間にか消えていく。ふるさとが貧しかった時代の頃から、夏になると飛び交う蛍を蚊帳の中に置いて眠ったものだ。お盆近くになるとゆらゆらと飛ぶ光を眺めながら、ご先祖様が帰ってきたぞと親父が話してくれたのを覚えている。そんな蛍はどこに消えてしまったのか。水辺などに群れて飛ぶ蛍はどこにもいない。その頃からなのだろう。暑い夏になると私の心の中に不思議な変化が生まれてきたのは。これは紛れもない蛍の飛び交う姿なのだ。もう蚊帳などはないが、小さく光りながら群れる姿を意識すると、心の中に親父が話してくれた頃の思い出が蘇ってくる。ご先祖様を迎える準備が心の中に出来上がったのだろう。今年もまもなくお盆になる。過ぎてきたものを反芻しながら、蛍の飛び交う姿とそしていつの間にか消えていく姿を想像している。
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