罹災者/渡 ひろこ
 
「リサイシャです。」 
突然の呼びかけにハッと顔を上げる
カウンター越しにその女性は佇んでいた 
小さな女の子を二人連れている 
一瞬 何と声をかけようか戸惑う


胸の底に沈殿している深い澱が
ズン とした重量で静かに迫ってくる
暗い海を纏っていて
腰から下は未だ海に浸かったままだ
小さな女の子たちは波間にあどけない顔をのぞかせ
じっとこちらを見つめている


「大変でしたね。どちらからですか?」

「フクシマからです。
主人はまだ向こうで働いていて帰れなくて…。」


生身の痛みを目の前にして
どの言葉も虚しく消えそうで
慌ててあらゆるポケットを探
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