蝉のいない夏/木屋 亞万
れる
虫は僕に後悔を教えてくれた
意図せずに傷つけてしまう
ちょっとしたイタズラのつもりで
たのしく遊びたかっただけなのに
死んでいった虫たちを
葬るのも僕らのしごとだった
自転車に乗って
セミが鳴いている木を、林を
通り過ぎるたびに
虫と遊んでいた頃を思い出す
今では触りもしない虫たちとの交流
夏の朝
網戸の窓から
目覚ましのように
鳴り響いた蝉の声を
今年はまだ聞いていない
いつの日か
蝉のいない夏が来る
鳥のさえずらない春も来る
君のいない秋もある
それから人間のいない冬も
きっとやって来てしまうのだ
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