異邦人の夏/シホ.N
クリ返シ、クリ返シ
とつぶやいてみる
くり返すというわけではないのだ
名状シガタイモノ
匂い、のようなものだろうか
苦しげなうわごとだ
夏が来たのだ
夏の匂いがしたのだ
まもなく祇園に
コンチキチンの囃子の音
辻々で山鉾が
夏の青空を射抜いて立っている
夕闇に落ちるのは
鴨川の納涼床の灯と賑わい
花街の軒先にさがる提灯の列
異郷の人たちがこの街を闊歩する
これが夏の風物詩とでもいうもの
抒情をかきたて
郷愁そそる
フウブツシと名付けられるもの
それらつれづれと描き並べてみるが
生活の無気力に疾風も怒濤も遠く
僕の内部は凪いでいる
それにしても
今年もやはり夏は来る
夏の匂いがやって来る
匂い、がするのだ
ゴム草履の感触ぺたぺたと
提灯ならぶ路地を銭湯通い
西陣織のギイギイバッタン
縁台だして夕涼みの人
豆腐屋さんのぱあぷうが遠ざかる
ア、ここに故郷をもつ人もあるのだナ
と奇妙な感慨
僕はといえば
ここは異郷の街、部屋で独り
今年もコンチキチンを聞いている
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