半夏生/砂木
 
てあなたが泣くの
他人のあなたに 関係ないでしょ

オー オー オー
どうしても泣けない私の代わりに 手をとってあなたは

しっ と人指し指を口元にあてて
えんぴつとメモ帳をさしだした人
声をだせないから 筆談にしよう

大丈夫か
大丈夫だ

書く事はまるでなかった 大丈夫だ
私だけ 私 

畳みをかきむしるのがおもしろかった
傷だらけになってゆく畳をみると気持ち良かった
大丈夫だと言っているじゃない 
爪に 感じる痛みがここち良かった

蹴飛ばすものは なんでも良かったけど
私は蹴飛ばさなかった
だって なくした悲劇より 喜びの奇跡の方が
いつかという約束も束縛もない ただの縁の方が
信じられる 

年をとってしまった 
私だけ 私だけ 年をとって

手をつないで守ってくれている
いないのは いないという事だけだ
どこに会いにいけるのか
影の回線をそっと回す

私だけ 年をとって
しまったわ オー




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