マヨヒガ/三条麗菜
 
ぶんと違います

細くなった腕をさしのべ
光をくださいと
光をくださいと

ここに一匹の蛾がいて
ある日家に出逢いました
その家には優しい明かりが
灯っていたのです
家の中は今しがた誰かが
いたかのようで
誰かのための食事も
用意されていました
それは温かい食事です
小さな椅子もあります
子供部屋では
おもちゃが散らかったままで
洗濯機には
干しかけの洗濯物
書斎には
勤め先の書類と
ノートパソコンが入った鞄
でもその家には
誰もいないのです
誰一人いないのです

その家は
私が捨ててしまった未来
だから早く取り戻さなければ
早く光を浴びて
私は蝶になろう
蝶に戻ろう

蛾は迷わず誘蛾灯に飛び込み
一瞬にして焼かれました
その時放たれた光が
あの細い腕まで届きます
そして誰かが持ち帰るのです
蝶になれなかった
蛾の亡骸を

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