マヨヒガ/三条麗菜
その家に入ると
今しがた誰かがいたかのように
明かりが灯されていて
食事までも用意されているのです
でもそこに
人は誰もいないのです
これは深い森で迷った果てに
たどり着くという
一軒の家の伝説です
この家から何かを持ち帰ると
幸せが訪れるといいます
森をさ迷うように
私は自分というものが
蝶であるか蛾であるか
見極めようとして
ずっと生きてきました
鮮やかな羽根を持ち
太陽の光の下で
花の蜜を吸うような存在か
くすんだ羽根を持ち
月の光の下で
樹液を啜るような存在か
実際のところ
昆虫としての差は
少ないというのですが
愛され方はずいぶん
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