煙に巻く/三原千尋
残り火をゆっくりとほぐしてゆく
煙をたぐり寄せ命綱とするわたし
煙を浴びると死んでしまうお前
善悪は置いておくとして
同じ世界に存在してしまうのだから
だからこそ
善悪も正義も置いておこう
だってゆるせるやゆるせないは
しんじられるやしんじられないは
すきやきらいと
どうちがうの
それを善悪とすり替えてしまったらわたしたちは
たちまちあやまちを犯してしまう
かずかずの民族が国が宗教が
互いに犯し続けてきたあの悲しいあやまちを
しかしながら臭かったりけむかったり迷惑だったりするのは
全面的に私であるからして
わたしはお前の呼吸の領土を守るべく慎重に遠ざかった後
もうもうと分厚い煙幕を張って
身を隠し
身を守る
仮にこのままわたしが逃げるように生きて豚のように死んだとしても
断りもなしに憐れまないで欲しい
だってそうだろ
わたしはお前に断りもなく
火を付けたりなどしなかったのだから
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