ピーアイエヌケー/魚屋スイソ
 
 鍋に水を張って、冷蔵庫で体育座りしたまま眠っていた彼女を沈めて、煙草に火をつけた。彼女の、絶対に笑うことのない冷徹な唇が好きだった。肌はミルクとピンクソーダがマーブルに渦巻いていて、まるで雨の日の窓ガラスを反転させたような表情をしている。火にかけると、首筋や肩や鎖骨の溝や二の腕に、薄桃色の水滴がたくさん浮き出てくるようになって、顫動しながらある程度の大きさまで成長した途端、次々に割れていく。プチプチしたグミかあるいは魚卵が、彼女の肌で産まれたり爆ぜたりしている。水面に広がった彼女の長い黒い髪が、先の方から色がなくなっていくのを、おれは煙を吐きながら観察していた。高熱で液化するどんな金属よりも穏や
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