散文詩_110620.txt/もしゅ
ややもすれば返り血を浴びていた。返り血といったって、別段ぶっそうな話じゃなくて、たった今僕の目の前で弟が鼻血を出したのだ。鼻血にしてはなかなか見事なもので、僕の後ろの真っ白な壁が真っ赤に染まった。危うく僕も染まるところだったけれど、近くにあった妹のプーさんのぬいぐるみを盾にしたのでそうならずに済んだ。結果、盾になったプーさんはもうウォルトディズニーには出演できないほどに殺伐としてしまった。まだ幼い妹は別段それを悲しむふうでもなく、むしろ鮮血に染まったプーさんが気に入ったみたいでプーさんを、ペロペロ、ぺろぺろとなめてはほほえみ、なめてはほほえみを繰り返した。気味が悪く思った母親がプーさんを妹から取り上げると、妹は火がついたように泣き出した。
妹が初めて愛らしく思えた瞬間だった。
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