1敗1勝/salco
 
の彼方へと
証人も無しに葬り去られた今

そして私は恐怖に駆られ走り出す
放射能の厚いヴェールを纏いつかせて
この突然に膨張を始めた世界の底で
声に出せば忽ち狂気となって気管を逆流して来る
叫びを、
血管という血管の中で上げながら
走る
何処へ?

                   1987



 四月二十七日  

歯石取りの前準備にスー・チー*を入院させ
検査結果が出るまでの一時間を隣町へ出て
ブラセットとか外箒とかオリーヴオイルとか
あれよとあれよと道なりに良い買い物が出来て
大荷物も重くなく腕に掛けて復路を行けば
花粉対策の立体マスクをした人達と存外すれ違い
丸出しな自分の鼻と口、薄茜を刷いた空が爽快で
ちょっと大きな気持になり
「放射能? 私には耐性あるんじゃねえの?」
と独りごちたことだった
アントニオ猪木程度にはまさかの不死身だろー


                  2011

* スー・チー … 拙宅の御猫様

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