釘を抜く/yo-yo
 
されたらしく、ほとんどの釘は曲がっていた。頭のとれた釘はバールが使えないのでペンチで抜く。
釘にはそれぞれの個性があり、素直な釘や頑固な釘があった。
木の個性と釘の個性が、むりやり合体させられていることもある。そんな釘を抜くときは、こちらも無理やりな力が要求された。
頑固な釘はしっかり頑固で、抜き取ったときは小さな勝利感にひたる。釘を抜かれた木はだらしなく横たわって、深いため息をついているようだった。

その夏の半分は、釘を抜く生活で過ぎた。
一日の作業を終えて運河の橋を渡るとき、潮の匂いが淀んだ川面を満たしていた。
ぼくにとってそれは海の匂いではなく、錆びた釘の匂いだった。その日にぼくが抜いた大量の釘の息が、夕方の運河を彷徨っているのだった。
どこかにあるだろう東京の海を、ぼくはまだ見たことがなかった。





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