夏の気配/
たもつ
ビンに入ったボーキサイトの見本を
男は理科室から盗んで逃げた
俺にはアルミニウムが必要だ
俺にはアルミニウムが必要だ
何度も自分に言い聞かせ
蒸し暑い住宅街の闇を疾走する
息が上がり足がもつれても
汗を舐め、走り続ける
逃げ切れたら寝転がろう
それからシャワーを浴びて
白い米の飯を食おう
男を追う者など最初からいない
ただ夏の気配だけが
ぴたぴたと後をついてくるだけである
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