簡単な話/プテラノドン
になれやしない。
腕を広げたって受け取る身体は一つだけ。
働ける時間もたかが知れている。留まろうっても
追い出されるのが関の山。バス停のわきの
コンクリートに腰かけていた
作業着姿の外国人の男がいい例。僕の関心は今や
彼の耳元に傾けられた携帯電話の声に集中している。
家族からの電話か、留守番電話を再生しているのか。
結果はごらんの通り。笑っている。ハッピーだろ?
溺れないように言葉を発したつもりが
どんどん沈んでいくような、空腹を我慢させるための
想像力と、這い上がれないことへの惨めさ。
そんなものとは無縁だし、そもそも誰もかれも
記述すべきことは決まっているんだ。
古い感情をないがしろにせずに、均衡を保ちながら
生き延びることは楽じゃない。ものは試しで
このパンをあげるよ。さっき婆さんに傘をあげたら
お礼に貰ったんだ。外は濡れているけれど中身は
手つかずさ。おい、まだ疑っているな。
紙にそう書いたんだ、大丈夫。
簡単な話だろ。
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