木々の家々/長押 新
あなたではない、友達がいます。
そんな当たり前のことを口にすると、彼は手の平でわたしを見るかのようにそっと近づけて、近づけた手の平をそっと引っ込めました。誰でもそんなことを言われたら、さみしくなるでしょう。わたしにはわかりきっていましたが、どうしても彼がしきりにわたしを知りたがることに、うんざりしていたのです。うんざりしていたという言い方はまた、わたし自身にもかなしみを落とします。
それだけやっかいな程、わたしと彼とには年月が流れていたのです。一体全体、何年もの間にひとつの契約も交わさずに、そばにいるということがどうしてできるのでしょうか。実を言うと以前にはわたしたちの間にも契約があったの
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