サラとスズメバチ/たもつ
 
翌朝、サラはほうきを持って巣を見に行った
サラはほうきで巣を突いた
と同時にハチの襲撃を恐れ十メートほど先まで走った
巣は崩壊し、ほとんどが地面に落ちた
近寄って覗き込む
縞模様の土状の破片や、巣の中身に紛れて
スズメバチの死体があった
巣の中には卵か幼虫か判別できない、
白いものがいくつか見えた
ハチの死に顔は安らかに見えた
「女でひとつで」という言葉が頭をよぎった
「女でひとつで」スズメバチは巣を作り、子育てをしていた
放っておけば事態が悪化することは容易に想像できた
いずれは凶暴な群れ形成する
それでも相手は
母親に成り立ての生身のハチ一匹だった
言い訳ならいくつも思いついた
わかっていた
それらが決して言い訳ではないことも
言い訳、と考えることが自体が
感傷に過ぎないことも
家の中から亭主の怒鳴り声が聞こえる
サラの名を呼んでいた
何度も何度も呼んでいた
幼子のように
救いを求めるかのように
 
 
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