坂の上のひと/恋月 ぴの
 
と仰ぎ見た苦悩
せめてあなただけでもと死を賭してくれた悲しみ

総ては無に帰してしまったのだろうか

これが分別ある大人になったということなのだろうか



この坂道は君とともに上った坂道

幾度振り向いても君の姿を認めることはできず
わたしひとり坂の上に取り残されて

よく太った野良がわたしを見つめているような気がした

どこかしらでちりりんと風鈴が揺れて
梅雨明けの空はゆっくりと茜色に染まりだす



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