ただ、胸がきゅっとしただけ/御笠川マコト
朝8時
上りホームの
通勤客の群れの中に
白いポロシャツの男を見た
ねえ
あの年廻りには
毎晩の馬鹿騒ぎ
また
戻りたいとは
思わないけれど
朝8時
下りホームに
電車が入って
ガラスの中に
日常に疲れた男が映る
ねえ
いつのまにか
ただのおじさんになって
ねえ
こうして群の中
なにも
否定したい物はないけれど
なにも
肯定できる物もない
「悲しい」とか
「やるせない」とかじゃなくて
ただ、胸が
きゅっとしただけ
ただ、それだけ。
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