教科書/草野春心
子どものころ
教科書をひらくと
とうめいな雲が立ちのぼり
そこだけに雨をふらせた
教科書はいつも
本のかたちをしていなかった
どこをひらけばいいのか
学びはそこからはじまっていた
教科書はいつも
なんのかたちもしていなかった
それは思いであり
孤独であり
はてしない未来であり
答のない問い
夢のえがく曲線
落書きのような哲学
おさえきれないテスト範囲
宿題だけふえていった
そして
教科書はいつも
さびしそうにしていた
ぼくたちが
あまりにもばかだから
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