あなたが生まれた時、あなたは泣いて、周りの人は笑っていたでしょう?/村上 和
 
た町の話
母の青春や恋愛の話
結婚して私が生まれるまでのこと
私が生まれてからのこと

なんだかとても心地がよかった
ふわふわと浮いた気持ちが
ますます軽くなってゆく

途中母に
お焼香のやり方を確認しようと思ったのだけれど
いつの間にか忘れてしまっていた



程なくして葬儀は終わり
みんなそろそろと
口数も少なく傘の下でうつむいて
家路なのかそれぞれの道を歩んでゆく
白髪交じりの母が
門の外で何度も頭を下げている

私から伸びた赤くない糸だけが
彼らの後を追っていた

彼らにも彼らの糸があるのだろうと思う

お焼香の順番は
とうとう最後まで回っては来なかった
それを不思議にも思わずに
私は棺の中で眼を閉じ丸まって
遠い雨音を聴いていた

そういえば
小学生の時
私はお焼香を食べてしまったのだと
ふいに思い出す

遺影で笑う人
その人を
私はあまりよく知らない
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